こんにちは、crowdworks.jp SREチームの田中です。
RubyKaigi 2025が愛媛県松山市で2025年4月16日から4月18日の日程で開催されました。 普段あまりRubyを書く機会はないのですが、楽しそうなので参加しました。
株式会社クラウドワークスでは、Gold SponsorsとしてRubyKaigiを協賛しました(ブース出したかった!)。
当日はクラウドワークス内の3つのサービスを開発する計14名のメンバーがRubyKaigiに参加し、素晴らしい学びと交流の機会を得ました。 松山の美味しいご飯や道後温泉も最高でしたね。
RubyKaigiは、Rubyの開発者やユーザーが集まり、Rubyに関する最新の情報を共有するカンファレンスです。 RubyKaigiではYJITのような処理系の最適化に関するセッションや、Rubyの構文解析、エンコーディングといったコアな話題が多く、Rubyを使用しているだけの私にとっては難しい内容が多かったです。
以前2回参加したRubyKaigiでは、セッションを聞いてもあまり理解できなかったので、もっとRubyKaigiのセッションを理解し、楽しみたいと思っていました。
今回は特に、セッション内容の理解を深め、参加者同士の繋がりを強化するために、『モブセッション』という新しい試みを行いました。この記事では、その詳細と効果についてお伝えします。
モブセッションとは
システム開発の手法の一つとして、モブプログラミング(Mob Programming)があります。 モブプログラミングは、ソフトウェア開発の手法の一つで、チーム全員が同じ時間に集まり、協力してコードを書き進める開発スタイルです。
モブプログラミングを行うことにより、以下のような効果が期待できます。
- コードの品質向上とバグの早期発見
- チーム全体の技術力と知識レベルの向上
- コミュニケーションの活性化とチームワークの強化
モブセッションは、モブプログラミングの手法をセッションに応用したものです。 モブセッションでは、参加者全員が同じセッションを同時に視聴します。 セッション中にはオンラインの同時編集ができるツール(今回はSlackのcanvas)を使用して、セッションの内容をまとめます。 わからない部分については、わからない旨を書き込み、他の参加者が調べたり、質問したりします。 セッション終了後には、まとめた内容をもとに振り返ることができます。
モブセッションの期待される効果
モブセッションを行うことにより、主に以下の2つの効果が期待できます。
モブセッション参加者の理解度向上
RubyKaigiのセッションは主に英語で行われるため、英語に不安がある参加者にとっては内容を十分に理解するのが難しい場合があります。 さらに、扱われる技術的なトピックが高度であったり、普段あまり触れる機会のない分野であったりすることも少なくありません。 ある参加者がそのセッションの内容を理解できていたとしても、その内容を共有しなければ、他の参加者はその内容を理解できないままセッションを終えてしまうことになります。
モブセッションでは、参加者が共同でセッション内容を記録し、わからない部分をその場で共有することで、他の参加者が補足情報を提供したり、一緒に調べたりすることが可能です。 ChatGPTやGeminiなどのAIツールを活用することで、セッション中にリアルタイムで情報を補完することもできます。 セッション中に疑問点を解消できるため、個々人が孤立して内容理解に苦労する状況を減らし、結果として参加者全体の理解度向上に繋がることを期待しています。
また、参加していないセッションについても共有された内容を後から確認することで、参加者全員がセッションの内容を把握できるようになることを期待しています。
モブセッション参加者のコミュニケーション向上
通常のセッション視聴では、たとえ同じ会社の参加者であっても、セッション中の参加者間のコミュニケーションは限定的になりがちです。 (セッションが終わって退出する時に、同じセッションを受けていたことに気づくことってよくありますよね) 弊社のように複数のサービスを開発している会社では、サービスをまたがった参加者同士のコミュニケーションはさらに少なくなります。 弊社でのRubyKaigiの参加目的の一つとして、他のサービスの開発者と交流し、情報交換を行うことが挙げられますが、通常のセッション視聴ではなかなか実現できません。
しかし、モブセッションでは、同時編集ツール上でのリアルタイムな情報共有や疑問点の投げかけ、それに対する応答を通じて、自然と参加者間のコミュニケーションが生まれます。 互いにわからない点を教えあったり、セッション内容について意見を交換したりすることで、参加者間の連携が密になり、交流が活性化されます。 これにより、セッション体験が単なる受動的な視聴に留まらず、参加者間の学び合いと繋がりを深める機会となります。
モブセッションに向けての準備
モブセッションを実施するにあたり、以下の準備を行いました。
ツールの選定
モブセッションでは、セッションの内容をまとめるためのツールが必要です。 今回は、Slackのcanvasを使用しました。
canvasは、Slack上でリアルタイムに共同編集ができるホワイトボードのようなツールです。 canvas上でテキストを入力したり、図を描いたりすることができ、参加者全員が同時に編集できます。 canvasは、Slackのチャンネル内で簡単に共有できるため、参加者全員がアクセスしやすいという利点があります。 弊社では、Slackを日常的に使用しているため、参加者がcanvasを使うことに対する抵抗感も少ないと考えました。
NotionやGoogle Docsなどのドキュメントツールも候補に挙がりましたが、全員がSlackアカウントを持っており、追加の設定なくすぐに利用できるという点でSlackのcanvasを選びました。
セッション一覧の作成
Slackのリスト機能を使用し、セッションの一覧を作成しました。 セッションのタイトル、発表者、セッションの概要を記載し、参加者が興味のあるセッションを選択できるようにしました。 また、セッションのタイトルや概要が英語で書かれているため、参加者が理解できるように日本語訳も併記しました。 また、Geminiを使用して、セッションのタイトルや概要からカテゴリを自動生成しました。 また、そのセッションに参加するメンバーがわかるようにしました。
周知
弊社ではRubyKaigiの参加者に対し、開催前にオリエンテーションを行いました。 その中で、モブセッションの目的や進行方法について説明しました。 これにより、参加者がモブセッションの意義を理解し、積極的に参加することができるようになりました。 モブセッションをすること自体が重荷になってしまうと意味がないため、必須の参加ではなく、参加したい人が参加するというスタンスで進めました。
当日の様子
当日のモブセッションの様子をちょっとだけ紹介します。
セッションの内容や感想、リアクションなどがあって盛り上がってる様子がわかりますね!
モブセッションの結果
モブセッションを実施後、参加者からのフィードバックを収集しました。
あなたはモブセッションをどれくらい使いましたか?
参加したセッションのうち、何%くらいのセッションでモブセッションを使用したかを参加者ごとに質問しました。
参加者によって、利用率は結構ばらけました。
使った理由
- メモ代わりにちょうど良かった
- 能動的にセッションに参加するため
- どなたかが貼ってくれる用語の説明などを見るため
- 終了後に他の方のメモ書きを見るという使い方ができるのはよかった
使わなかった理由
- 書き始めるとセッションの話についていけない...
- 個人のSNSでハッシュタグを追いかけていたのでそっちに書いてしまった……(いつものクセで)
- 会場では私物のPCを使用しており会社のSlackアカウントを入れていなかったため
モブセッションはあなたの役に立ちましたか?
参加者ごとに1〜5の5段階でモブセッションが役に立ったかを質問しました。
社内で実施した取り組みなので、平均値が高くなる傾向はありますが、多くの参加者がモブセッションを役に立ったとの回答を得られました。
使ってみた感想・次回に向けての改善点
自由回答で使ってみた感想・次回に向けての改善点を質問しました。
理解度向上に関する声
- わからないキーワードなど解説を書いてくださった方がいて、大変ありがたかったです。素朴な質問にも答えてくださって、わからなくてぼーっとすることがありませんでした。
- 集中して聞こうという気持ちになれるのでよかったです
- 写真だけ撮って後からまとめ直すとかでも効果がある気もしました。(特に英語のセッション)
- 現地でのリアルタイム(書き込み)利用は(自分には)厳しいかも... モブセッションをベースに(ピックアップして)各セッションの振り返りを実施するというのはいいアイデアかも...
- 予習をもう少しする
- 孤独になりがちな、わからない部分への感想や調べ物をシェアできるのはとても良いと思います。ただ自分がモブ不向きなだけなので、今後もあると良いと思いました。
ツール・運用に関する課題や提案
- モブセッションのアイデアはとても良かったと思いました。個人的にはNotionの操作に慣れているため、全員が使える環境が整えることができれば、Notionも候補に挙げていきたいと思いました。
- どの行に記入するかみたいなものちょっと迷ったのでfigjam形式はもしかしたら良いかも?
また、当日のWi-Fiの接続が不安定だったため、セッション中にcanvasが落ちてしまったり、参加者がcanvasにアクセスできなかったりすることがありました。 NOCチームの方々が対応していただいていましたが、3日間のセッション中に接続できない状態が発生し、せっかく書いた内容が消えてしまったり、参加者がcanvasにアクセスできなかったりすることがありました。
まとめ
今回のRubyKaigi 2025では、セッション内容の理解を深め、参加者間のコミュニケーションを活性化するという目的のもと、「モブセッション」という新しい取り組みを試みました。
参加後のアンケート結果からも、モブセッションが参加者の理解度向上やコミュニケーション促進に一定の効果があったことが確認できました。 「わからないキーワードの解説がありがたかった」「集中して聞こうという気持ちになれた」「孤独になりがちな中で感想や調べ物をシェアできたのが良い」といった声は、目指した効果が現れた証だと感じています。 一方で、「書き始めるとセッションに集中できない」「ツールの操作に慣れていない」「Wi-Fi環境の不安定さ」といった課題も見つかりました。
今回のモブセッションは、チームで共に学び、交流を深める新しいスタイルの一歩となりました。 完全に全員にとって最適な方法ではなかったかもしれませんが、セッションの理解を助け、普段あまり話す機会のないメンバー同士が繋がるきっかけを作れたことは大きな成果だと感じています。
今回の経験と反省点を活かし、今後もチームでのカンファレンス参加や学習活動において、より効果的で参加しやすい方法を模索していきたいと思います。
このような素晴らしい機会を提供してくださったRubyKaigi運営チームの皆様、ありがとうございました!
We're Hiring!
株式会社クラウドワークスでは、サービスを開発したりRubyKaigiに参加したりするメンバーを募集中です。