
こんにちは、エンジニアの船井です。
EMは大変そうだ。
ただ、漠然と感じているだけで、実際に何がどう大変なのかはよく分かっていませんでした。 私は普段、小規模な開発チームのリーダーとして働いています。いわゆるEMではなく、現場寄りの立場です。
EMConfに参加したのは、その大変さをもう少し具体的に理解したかったからです。
EMConf JP 2026 は2026年3月4日に開催されたエンジニアリングマネジメントのカンファレンスで、テーマは「増幅」と「触媒」。200件以上のプロポーザルから厳選された26セッションが行われ、今年は700名を超える参加者が集まりました。
セッションを聞いていく中で見えてきたのは、EMの大変さは単なる忙しさというより、判断が集まり続けてしまう構造にあるのではないか、ということです。 そしてそれは、現場側の関わり方次第で変えられる部分もありそうだと感じました。
この記事では、印象に残ったセッションとあわせて、現場側からできそうだと感じたことを書いてみます。
※以下、各セッションの内容は筆者の理解に基づく抜粋です
セッションを通じて見えてきたこと
これまで技術系のカンファレンスにしか参加したことが無かったため、人や組織をテーマにしたセッションがこれだけ集まっていること自体が新鮮でした。
いくつかのセッションを通して感じたのは、似たような悩みが形を変えながら繰り返し現れていることでした。 たとえば、誰がどこまで判断するのかが曖昧なまま進んでしまうことや、最終的な判断が特定の人に集まってしまうことです。領域をまたぐ話になるほど「これはEMに相談したほうがよさそう」と感じてしまい、自然と判断を預けている場面も少なくありません。
判断がEMに集まりやすいこと自体は、多くの人が感じていることなのだと思います。実際、EMに関する本でも、権限委譲や意思決定の持ち方はよく取り上げられています。 すべてを分散できるわけではありませんが、現場側の関わり方によって、ある程度は偏りを減らす余地がありそうです。
自分の関わっているプロダクトでも、横断的な課題のオーナーが曖昧なまま、結果的にEMが拾っている場面がありそうだと感じました。
判断の偏りを減らすためにできそうな3つのこと
カンファレンスを通じて、すぐにすべてを変えられるわけではないものの、日々の動き方を少し変えることで影響を出せそうなポイントがいくつか見えてきました。
1. 任せる範囲の認識を揃える
まず、チームの中でどこまで自分たちで判断してよい範囲かの認識合わせと、それを少しずつ広げていくことです。
三谷さんのセッションでは、冒頭の「人が増えたのにつらみが増えた」というスライドに、何人もの参加者がうなずいていました。事業施策に取り組む一方で、オーナー不在の横断課題が放置されていく問題に対し、「委員会制度」で解決するというお話です。
印象的だったのは、ただ自由に任せるのではなく、テーマはEMが設定し、活躍がきちんと見える制度を丁寧に設計していた点です。EMが決める部分と自由に動ける部分の境界を曖昧にしないからこそ、継続的に機能する仕組みになる。
中でも「強制的な遊び場」という表現が頭に残っています。燻っている人に打席を用意し、普段の業務では関わらない人同士のつながりが生まれる仕組みだと感じました。
もう一つヒントになったのが、daitasuさんの「権限移譲する/される側」の話です。任せている側が期待している範囲と、任されている側が認識している範囲にズレがあると、任せたつもりでもうまく機能しない、という話でした。
自分のチームでも、任せているつもりの範囲と、実際に任されていると感じている範囲の差をたまに感じることがあります。そのギャップを埋めるためにも、どこまでを任せたいのかを言葉にしてすり合わせるところから始めたいです。
2. 提案のレベルを上げて、判断コストを下げる
次に、提案の出し方を変えることです。
こにふぁーさんのセッションでは、課題を共有するだけでなく、自分なりの考えまで含めて提案することの重要性が語られていました。 レベル0からレベル3まであり、レベル2からは、提案に自分の意思をのせることが求められます。
"提案"のレベルを上げる - Konifar's ZATSU
興味深かったのが、「役割が上がるとレベルが戻る感覚になる」という指摘です。メンバーとしてはレベル2〜3で提案できていたのに、リーダーやマネージャーになると扱う課題の抽象度が上がり、またレベル0〜1に戻ってしまう。この感覚には自分にも心当たりがあり、どの職種でも役割が上がれば起きることだと思います。
三谷さんの「委員会制度」のように、リーダーが委員長的にオーナーシップを持って推進するのが理想的ですが、日々の業務で手一杯の状態で新しい役割を引き受けると、リーダー自身がパンクするリスクもあります。
そこで、既にやっている仕事のやり方を変えるだけでできるのが、この「提案のレベルを上げる」です。「こういう課題があります」で終わらせず、「こういう選択肢があり、自分はこの案を推します。理由はこうです」まで持っていく。EMが0から考える仕事を、確認して承認するだけの状態にまで持ち上げる。 たとえ確信が持てなくても、自分の考えを一言添えるだけで会話の進み方は変わります。提案のレベルは意識的に上げていきたいところです。
3. メンバーの温度感を拾う
最後に、メンバーの関心や変化にもう少し意識的に目を向けることです。
安斎さんのキーノートでは、組織マネジメントの考え方が戦時中の工場運営にルーツを持っているという話から始まりました。トップが決めて現場が実行する「軍事的世界観」から、自己実現の幅が広がった現代では「冒険的世界観」への転換が必要だという指摘です。
中でも目標設定のあり方が刺さりました。具体性や測定可能性を重視する「SMARTの法則」はよく使われますが、取り組む側が前向きな意味を感じられるかを問う「ALIVEの法則」という観点が紹介されていました。
【ALIVEの法則】 Adaptive:変化に適応できる Learningful:学びの機会になる Interesting:好奇心をそそる Visionary:未来を見据える Experimental:実験的である
(安斎勇樹『冒険する組織のつくりかた』より)
自分のチームでも達成条件や測定方法に目が向きがちで、「取り組みたいと思えているか」という観点は、あまり持てていなかったかもしれません。組織として決まっている方針もあるため、すべてを自由に設計できるわけではありませんが、その中でどう意味づけするかには改善の余地がありそうです。
興味のマネジメントは、むしろリーダーこそ実践しやすい領域だと思います。EMは組織全体を見ている分、個々のメンバーの興味の変化をリアルタイムに追い続けるのは難しいはずです。 一方、リーダーはメンバーと日常的に会話をしています。「最近この技術に興味を持っている」「このタスクには前のめりだけど、あのタスクには気が乗っていない」など、温度感の変化に気づけるのは、現場にいるリーダーの強みです。
そういった変化を拾いながら、少しチャレンジングな役割を任せてみたり、振り返りの中で話を聞いたりすることで、成長のきっかけをつくれる余地がある。EMがすべてを担うのではなく、現場側でも一部を引き受けることで、全体として無理のない形に近づけると思います。
まずは小さく始める
ここまでいくつか挙げてきましたが、一度にすべてを実践するのは難しいと思います。
たとえば、EMに相談するときに状況の共有だけで終わらせず「自分としてはこう考えています」と一言添える。メンバーとの1on1でも、タスクの話だけで終わらせず、最近気になっていることや関心のある領域について少し踏み込んで聞いてみる。それだけでも、判断の偏りを緩和する一歩になるはずです。
新しいことを始めるというより、今やっているやり取りの解像度を一段上げるだけなので、比較的始めやすいはずです。EMがすべてを背負っているように見える場面があれば、まずは自分の提案の出し方を変えるところから始めてみようと思います。
最後に
EMConfのセッションは抽象度の高いテーマが多く、最初は自分にどう活かせるのかイメージがつかない部分もありました。
ただ、各登壇者のリアルなエピソードを聞いていくうちに、EMのやりがいや辛さがかなり解像度高く見えてきました。自分の組織に当てはめながら聞いていると、日頃うまく言語化できずにいたモヤモヤが、実は他の組織にも共通する課題だったのだと分かったのは大きな収穫でした。
自社の組織の話を社外でするのはハードルが高いものですが、それでも率直に共有してくれる登壇者の方々と、その場を作ってくれた運営の皆さまには感謝しています。
同じように、EMの大変さは感じつつも自分に何ができるか分からないと感じている方にとっても、EMConfは思った以上に持ち帰れるものがある場でした。